2016 MY TOP FILMS 10位〜1位

10. シエラネバダ (原題)

クリスティ・プイウ監督作

/ ルーマニア映画 (ドラマ)

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今年のカンヌ国際映画祭で評論家の間で話題になった不毛でカオスなファミリー映画。亡くなった一家の主の法要で、親族がアパートに集まってくる。細かいトラブルが重なり物事は予定通りに進まず・・・。

 間取りが窮屈なアパートの特性を最大限に生かし、そこに親戚が大勢集まる事で生まれる小さくナンセンスな衝突のカオスを長回しながらも時に分割し時に一括りに見せていく。ルーマニアで9.11について議論するナンセンス、革命前後の価値観の異なる家族同士の口論のナンセンス、神父による説教というナンセンス、寝ては喚くを繰り返す赤子のナンセンス、正装で食事をしなければならないナンセンス、連れてきた嘔吐する女を見捨てて姪が退場するナンセンス。とにかく不毛でカオスな空間が見もの。
 ルーマニア映画である必然性にしても、チャウシェスク処刑前後の価値観の転換がそのまま世代の価値観の衝突を促していた。特に共産主義の猛威により弱体化した教会に対する意識が革命後の信教のユルさに続いているからこそ。肉親が死んだ直後というのにあそこまで下品な状況でいられる光景というのは、さすがに信教がユルい日本でもなかなかお目にかかれない。
 三時間の長尺の辛さゆえの観客の『長い。早く終わってくれ』という気持ちと主人公の『早く飯食わせてくれ』という気持ちがシンクロしてくる面白さもあり良くも悪くも感情移入出来る諸刃な作り。ただ様々な小さな衝突が一つの大きなうねりとなり平穏に向かうのではなく、一人また一人と退場していく事で平穏に向かうというのはリアルではあるがシナリオとして物足りなさも感じた。もっとも全てが計算に向かわずナンセンスだからこそ、中々終わろうとしない魅力があるのだが。 

 

9. サウルの息子

ネメシュ・ラースロー監督作

/ ハンガリー映画 (ドラマ 戦争)

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カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。ハンガリー系ユダヤ人サウルは同胞であるユダヤ人の屍体処理に従事する特殊部隊ゾンダーコマンドで働く。ある日ガス室で息子とおぼしき少年を発見、埋葬しようと奮闘する。

 強いボケ味や正方形に近い画角、主役をひたすら長回しで取り続ける演出は最近よく見られがちだが、ぼやけてる背景を見せる事に力を入れたアイデアが他を圧倒。ありがちな映画だと舞台を見せてから人物を描くが、その分離された不自然は臨場感を奪ってしまう。しかしこの映画は主人公がアウシュビッツでの仕事をしながら目的を遂行しようとするところを描いている。奮闘する主人公と背景のエグさという二つの情報を同時並行で見せていく。このリアリティはかなり唸らされた。仕事がアウシュビッツでのユダヤ人処分だから尚更に。
 そして後半に行くにつれてぼやけてる背景だけで主人公も際立っていく。最初は無意味に思えた主人公の目的も、あの状況下では生きる意味を作る事が最も大事だと伝わってくる。その意味でタイトル自体も面白い。ただ意図による個性がはっきりしすぎる作品な分、ぼけている背景で起きている事を見せる引きはあるが、アウシュビッツの光景をボケでみせる演出の面白さに慣れてしまったら終盤まで飽きてしまうところも否めない。とはいえワンアイデアとそれを実現させる力量は新人監督の中でも群を抜いている。 

 

8.  最後の追跡

デヴィッド・マッケンジー監督作

/ アメリカ映画 (Netflixオリジナル ドラマ)

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日本でも観れるNETFLIXオリジナル映画が2017年のゴールデングローブ賞作品賞にノミネート。貧困にあえぐテキサスの町で、計画的に銀行を襲う兄弟と定年間際のテキサスレンジャーとの攻防を、独特の緊張感で描き、アメリカの闇から歴史、宗教などを巧みに会話に取り入れた現代西部劇。
 逃亡する銀行強盗側と追跡するレンジャー側両者の相棒との関係性を掘り下げる事で善悪を超え『どちらにも感情移入させる』という構造は、終盤に行くにつれ緊張感を与え両側の一挙手一投足を固唾を飲んで見守らせる事に成功。シンプルなストーリーなのに後半どう転ぶか全く分からずとにかく引き込む力はもちろん、淡々とストーリーは進みながらも会話も意外と皮肉たっぷりでユーモアがある。加えて寂れたテキサスの消費者金融の看板があちこちに見かけられる光景と、今も変わらぬ壮大な先住民族の住んでいた大地が哀愁を誘いかつ重みを与えてて面白い。
 何故この映画がNETFLIX配信なのかと考えると、やはり劇場が近所にある都会の人間ではなく田舎に住むアメリカ人が胸を熱くする映画だからなのだろうか。『地方の貧困』『父性の失墜』『住民が銃を持つ理由』『善悪を超えたプロット』どこを切り取ってもドナルド・トランプに投票したであろう地方に住むアメリカ人のみを描いた映画であり、今のアメリカを理解するヒントになりそうな傑作。
 

7. この世界の片隅に

片渕須直監督作

/ 日本映画 (アニメ 戦争)

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1944年広島。18歳のすずは、顔も見たことのない若者と結婚し、生まれ育った江波から20キロメートル離れた呉へとやって来る。軍港ゆえ空襲にさらされる状況でも懸命に生きるすずだったが、ついに1945年8月を迎える。
 朝ドラダイジェストの様な凄まじいテンポで過不足なくその癖ゆったり見せている。そのあまりにも独特すぎるテンポが何故成立しているのか。結局の所すずの失敗した時の表情が全てなのではないか。あの表情が細かいエピソードのオチとしてアクセントになる事でテンポが格段に良くなり、それでいて戦時下を生きながらもほのぼのとしたゆったり空気感を与える。そしてあの表情が消える終盤には、その落差として機能しはじめる。
 そして今作を見て特に感じたのは【戦時中と現代は繋がっている】のだと意識的に描いているという事。当時の衣食住や男女観は現代とは全く異なる。しかし日常を徹底して描くことで、観客と同じ喜怒哀楽を生きている事を意識的に感じさせ、そして戸惑わせる。『戦時下でひもじく、夢もなく、勝手に決められて嫁ぎ、夫の実家で義姉にいびられながら暮らす』という生活も『コンビニもあって、夢を抱き、自由恋愛ができる』という生き方も人間の生き方として大差ないのだと感じさせ、そして今失ってきている生活の魅力に戸惑わさせられる。呉という舞台設定も絶妙だ。自分も車で山に登って俯瞰を見た事あるが、海上自衛隊の艦が見える今の風景と今作の戦時中の俯瞰は紛れもなく繋がっている。そして広島市内ではなく呉という距離感。すずの上に原爆は投下されずキノコ雲を眺めるという描写に抑える事で、観客にもより共感しやすい原爆との距離感で描く事に成功している様に感じた。
 今の日本人の多くは戦争を経験しておらず、過去の戦争は遠くから眺めるもの。露骨に原爆が頭上に落とされるのではなく『確かに落ちた』という事実を被曝せずとも最も近い距離感で体感させる事が重要だ。そして現代と繋いで描かれる日常に突如入り込む空襲描写のリアルは観客に初めて戦争を生きるという事を実感させる事になる。過度に反戦を描けばかえって息苦しさを産む。リベラル側の理想論を説教くさく感じてしまう人にも、想像力で当時への想いを委ねさせているという点でまさに現代的な作品だ。宮崎駿的な理想の生き方への追求よりも、こちらの方が2016年にはピンとくるものがあるかもしれない。

6.  エクス・マキナ

アレックス・ガーランド監督作

/ アメリカ映画 (SF)

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アカデミー賞特殊効果賞受賞作品。巨大検索サイトのCEOの別荘に招待された社員がCEOが開発したA.I.エヴァチューリングテスト(人間と区別がつかないか判定するテスト)を依頼されるが・・・。
 低予算ながらも『マッドマックス 怒りのデスロード』のアカデミー賞V8を阻止したA.I.エヴァのヴィジュアルが本当に素晴らしい。田舎娘的な純朴なアリシア・ヴィキャンデルの顔とガリガリなロボット腕とスケルトンボディのギャップが堪らないデザイン。そしてキョウコ演じるソノヤ・ミズノのクールビューティなルックス、登場人物が男2女2の映画で女性陣2人ともヴィジュアルが今年随一。劇伴も異常に良くまさかのPORTISHEADのジェフ・バーロウが担当。エンドロールで流れる曲がSavagesの『husbands』というのもヴォーカルのルックスとエヴァを重ねられる。
 ストーリーに関して物語動機は『A.I.チューリングテストを行う』というシンプルさで登場人物も4人なので難解な題材になりながらも置いてけぼりを食うことはない。その中でA.I.とはじめて喋る緊張感は痺れ、CEOの心を探りながら進化や本当の狙いを探りながら観れる面白い内容。しかしシンプルで展開がゆっくりなので裏を返せば見る側に緊張感がなければかったるい映画となる。加えて後半の展開に関してどんでん返しが何個かあるが登場人物が少ないゆえに観客が推理しやすい作りなので結末は想定内で肩透かしをくらうもの。
 

5. エブリバディウォンツサム!!

リチャード・リンクレイター監督作

/ アメリカ映画 (青春)

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 監督曰く『6歳のボクが、大人になるまで』の精神的続編・・・らしい。1980年夏、ジェイクは、野球の推薦入学生として大学に通うことになる。本格的に授業がスタートする前の数日間、彼は新しく知り合ったチームメイトたちと共にどんちゃん騒ぎを始める。

 観客の多くが人生で通過したバカ遊びやただ楽しい瞬間のパターンをほぼ過不足なく描き、それを実現させるために障害になるであろう要素が徹底的に排除。時間を描くのが得意なリンクレイターらしく新入生の新学期前三日間という設定にする事で『楽しい時間の終わり』を感じさせない。将来はメジャーリーガーな名門野球部の特待生設定なので未来を考える重たさも与えない。

加えて対立軸となる登場人物は出さず、出てきても新しい体験をくれるものとして描いてた。体育会系なのにパンクライヴも楽しむし、演劇部のパーティーも楽しむ。ありとあらゆる学生の遊びのパターンを見せられる中ギャンブルがないのは何故なのかと少し疑問に思いもしたが、ギャンブルは『負け』を観客に浮かばせる可能性があるからだろう。敢えて障害を描かず挫折を描かないバカ映画を1980年代のアメリカを舞台に今のアメリカで描く意味は途轍もなく深い。

 

4. シビルウォー/キャプテンアメリカ

アンソニー&ジョー・ルッソ監督作

/ アメリカ映画 (アメコミ マーベル) 

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マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU) 第13作品目。これまでのシリーズが娯楽映画として『物量とお祭り的力技頼りで茶番要素満載だった』点を逆手に取った構成。それでいて娯楽映画としての満足を与えられる展開を必然的に用意し、現在の二つに分かれてしまったアメリカを象徴的に描く。

 『アベンジャーズ国連が管理すべきか否か』という問題提起の中、管理賛成派のアイアンマン側と反対派のキャプテンアメリカが対立。真っ当なのはアイアンマン側だが『管理する側が間違ってる可能性もある』という一個人の人権を主張するキャプテンアメリカの理想論がまさに自由の国の象徴的。アイアンマンとキャプテンアメリカ、どちらの意見が正しかったと短絡的な結末にせず『個人主義』である事がアメリカにとって重要だと再確認させる内容。

 娯楽として今作一番の売りはアベンジャーズの紅白戦だが、設定上被害者を出せないので派手な大量破壊アクションで戦いを描けない分能力バトルに特化。MCUとしては前作でアントマンを登場させ、今作でついにスパイダーマンを登場させた最大の意図はここにある。スカーレット・ウィッチの超能力が万能すぎるのと、チートになりかねないヴィジョンが想像より弱いというツッコミ以外はほぼ能力バトルは面白く、派手な破壊がなくても十分マーベルは観れる事を証明した。加えてウインターソルジャーの会議場破壊は誤解だったとアイアンマンが気づき、仲直りする茶番的な帰着点にミスリードさせてからのエゲツない展開はストーリーとしても秀逸。MCUシリーズが毎度毎度茶番ばかりゆえ、それがより重たくのしかかる。

 

3. ハドソン川の奇跡

クリント・イーストウッド監督作

/ アメリカ映画 (実話ドラマ)

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2009年真冬のNYで起きた飛行機のエンジントラブルによるハドソン川への不時着水。乗客155人が全員無事だった事件の機長を主人公にした実話モノ。

 クリント・イーストウッドの映画は毎度一貫したテーマだ。己の正義を貫く者による誤った判断(殺人)、その連鎖、PTSDになってしまう主人公像。主人公は常にアメリカを象徴する人物と大体決まっている。しかし今作は監督がこれまで一貫して描いてきたテーマの反転であり、ある意味監督自身の結論とも捉えられる。

 主人公が己の正義の下に正しい判断をし、そして誰1人死なずに映画が終わる。それも主人公は特別な事はせず、日頃の誠意の積み重ねが自分の人生に偶然相乗りした人を救う。そしてそれはその人の家族や友人を救う事になる。まさにクリント・イーストウッドが監督を続けている意味はこれなのだろう。そして組織が誤った判断をした時、自分の正義で人を救えるかというテーマも含まれている。ある意味描いているものは『シビルウォー/キャプテンアメリカ』に近い。今アメリカが大転換期を迎え誤った方向に向かう可能性もある分、こういう自己判断力という要素は特に重要なファクターになりそうだと予感させる。

 娯楽映画としても良くできており全編IMAXカメラで撮影された映画なのでIMAXシアターで見たが飛行機に搭乗の臨場感を与え、NYの美しい都市風景・飛行機のジェット音・視界を埋める画角の画面は見応えもある。後半の法廷モノとしてのシミュレーションは、フットボールの敵チームのPKを見つめる様な手に汗握る内容。エンドロールで流れる音楽も大袈裟なエモーショナルな『USA!USA!』な『アルマゲドン的なもの』ではなく、しっとりとしたジャズというのも大きなヒーローが必要のない現代を象徴している。地道な仕事の中で誠意を持って臨めば誰にも人を救う事ができるのだと思わされる。これまでのクリント・イーストウッド監督作に比べたらあまりにもこじんまりした作品だが、だからこそ伝わるものがあった。 

 

2. LOVE 3D

ギャスパー・ノエ監督作

/ フランス映画 (恋愛)

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一人の女性への偏愛を嫉妬や後悔とひたすらファックの思い出で描く。『カルネ・カノン』的な偏執的な主人公像、『アレックス』的な時系列操作、『エンターザヴォイド』的なドラッギーな演出でまさに変態ギャスパー・ノエ監督の真骨頂的な映画。

 男は女々しくいつも過去にとらわれ、そして意思が弱くてクソである。そんな事実を恥じらいも捨ててさらけ出す。『ハドソン川の奇跡』や『この世界の片隅に』で世界や日本を考える事も大事だが、どんなに真面目に世界の事を考えても「好きな女」こそが世の中で最も重要であると言わんばかりのダメな側面を徹底的に描いている内容。しかしそれも真理と思わざるを得ない。

 『何故主人公がヒロインに惹かれるのか』『なぜヒロインが主人公を愛しているのか』などの情報を、無駄なストーリーを排してファックの演出のみで描ききる。劇伴も照明もギャスパー・ノエらしくドラッギーでアートさは健在。

 ただし「好きな女が世界の中心」という映画な分、ヒロインに惹かれ主人公に感情移入しなければ苦痛な映画になるだろう。女性目線でも主人公の男をカワイイと思えなければかったるい映画に見えなくもない。その点、自分はジャンキーで変態で女王さま的なヒロインがかなりどストライクで、飽きる瞬間がほとんどなかった。だからこそ一つ気に食わなかったのはラストで出会ったばかりの二人を描いた場面。何故、出会ったシーンでヒロインが純朴でイモい格好をしているのか。最初から女王さま的な風格のキャラで良かったのに。

 

1. キャロル

トッド・ヘインズ監督作

/ アメリカ映画 (恋愛)

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パトリシア・ハイスミスの原作をもとに1952年のニューヨークを舞台にデパートのアルバイト女性とエレガントで洗練されたマダムの恋愛を描く。

 結局この映画の見るポイントは1点。それは【想い合う二人の距離感】で、この50年代演出も同性愛差別の時代背景もあくまでもそれを描くための飾りにすぎない。想い合う二人の距離感を描く、まさに純愛映画だ。『純愛』を丁寧に描くのが難しい昨今。観客の目線にしても恋愛に関する情報過多で冷めた目線で恋愛を見るのに慣れてしまっている。描き方にしても童貞処女で描くと思い合ってるのに縮まらない距離感に『ウブ』という上からの目線が入ってしまうし、禁断の恋で描くにも起承転結の構成上悲恋を強調するため両想いと知ってから身体的に結ばれる展開がトントン拍子になりがちだ。

 今作も禁断の恋には違いないが、50年代という同性愛が認められていない時代設定を強調する事で二人の純愛の【距離感】を特に強調して描いていた。序盤から想いあってるのに通例の悲恋通りにトントン拍子に身体的な距離感が縮まらない。とは言えそこにウブさもなくイライラもしない。その意味で同じレズビアン映画『アデル ブルーは熱い色』とは全く見るべきポイントが異なる。あの作品はレズビアン映画を普通の現代の男女の恋愛と同様に描いた事に意味があり、あの二人は純愛ではない。とにかく恋愛の距離感が美しい。そしてそれを成し遂げたケイト・ブランシェットルーニー・マーラ、二人とも素晴らしい。

    今作を何故自分が1位にしたのかと考えて、結局LGBTみたいなリベラルな価値観を描く表現って『リベラルであること』を主張するのではなく『リベラルを使う事でいかに普遍的なものを切り取るのか』だと思うし、LGBTがその段階に来たという意味で一歩先を行ってると思うのだ。




    恋愛映画を1位2位にする所が何とも自分らしくてすみません。そして世界中の映画を見たつもりだったのですが、やはり世相を反映しているせいかトップ10は半数以上アメリカ映画という結果となりました。

 

 

 

 

2016 MY TOP FILMS 20位〜11位

20. グランド・フィナーレ

パオロ・ソレンティーノ監督作

/ イタリア映画 (ドラマ)

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世界的にその名を知られる、英国人音楽家フレッド。今では作曲も指揮も引退し、ハリウッドスターやセレブが宿泊するアルプスの高級ホテルで優雅なバカンスを送っている。そんな中、英国女王から出演依頼が舞い込むが、なぜか頑なに断るフレッド。その理由は、娘のレナにも隠している、妻とのある秘密にあった…。

 年始に高齢ベストセラー作家と会話した際「お金の使い方や女をはべらす様な遊びを今の若者は知らなすぎる」と言っていたが、彼が言っていた「大人の男たるもの」のイメージがそのままこの作品に近いものを感じた。今作も過去のパオロ・ソレンティーノ監督作の例に漏れず、『オヤジ版フェリーニ甘い生活』であり一発で巨万の富を得た成功者のその後を描く。覚悟の通り大きな物語動機がない群像を見せる内容だが、前作以上にクリアでかつ計算された構図で老化した男女の汚い体を撮る様な皮肉交じりの演出と、インテリを否定する内容なのにどこまでもインテリな画を撮るところは洗練された印象。

 David Langのスコアのセンスも相変わらず良し。一昨年ピッチフォークで9点超えしたバンドSun Kill MoonのMark Kozelekが本人役で出てたり、かと思えば『グレイト・ビューティー』もそうだったが、時々チャラい音楽をあえて使うのがアクセントでこれまた良い。今回もEDMかかったりポップスターのMVみたいになったり。客層がインテリなジジイとババアなのにジャンクな音楽かけてとにかくおちょくる。世の富める高齢者の物語な分、貧しいくすぶる若者には嫌悪感を抱くポイントも多いが、自分とは全く異なる価値観の人物像、仮想敵が見られるのも映画の世界だからこそ。

 

19.  アクエリアス (原題)

クレベール・メンドンサ・フィリオ監督作

/ ブラジル映画 (ドラマ)

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海岸リゾート都市として知られるレシフェで生活し続ける音楽評論家のクララが、長年愛してきたアパートの地上げの危機にさらされ、それを断固として拒否し続ける姿を描く。近年W杯〜オリンピックで世界の話題になった都市開発が進む南米ブラジルを象徴する作品。

 【都市開発のドライな地上げとそれに抵抗する中年】という設定は日本人としてはモチーフとして古さを感じるが、両者の描き方にブラジル映画らしいユーモアがあって面白い。「乳癌・夫の死・メイドの裏切りなど人生の闇を乗り越えアパートで暮らす中年女性像」というと慎ましやかに生きてそうなものだが、さすがブラジル。青姦する者がいるほど色気立ったビーチが眼前に広がるアパートで音楽評論家として暮らし夜遊びもセックスもする。

 一方の都市開発の地上げ側の姿勢もドライながらも立ち退かせるためのアイデアにアパートでの爆音乱交パーティーからシロアリの巣の放置までユーモアがあった。特に主人公の女性に関して、これでもかと様々な背景を背負いながらも心を折らず暗く落ちずに唯一の拠り所である砦を守り抜く気丈さには、共感せずとも魅了された。これでカンヌで女優賞取れないとは。ただ、主人公が頑なに抵抗し続けた先に新たな何かが見えてこなかった。相手が仕向けたエゲツない地上げ方法のインパクトをそのまま仕返しに使うオチは気持ちよくもあるが、彼女の中で今回の一件通した成長というものを感じれず。これで良いのかという疑問も残った。 

 

18. 最愛の子

ピーター・チャン監督作

/ 中国映画 (ドラマ)

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深圳市街地で3歳になる男児が行方不明に。両親は息子の情報を集め3年後ついに中国北部の村で生活していた彼と再会。連れ戻そうとするが、息子から育ての親から離れたくないと激しく拒まれてしまい・・・。実話を基にした親子ドラマ。

 中国の社会問題『子どもの誘拐』を題材に『都市と田舎の経済格差』『離婚による片親の養育』『詐欺の横行』『一人っ子政策の弊害』など様々な問題が浮かび上がる作りだが、何より人物描写が丁寧で息子を誘拐された両親はもちろん、突然知らない人が両親になる息子、夫が拾ってきた子に愛情を注いできた不妊症の女、新たに子どもを作るべきか葛藤する被害者の会の男、それぞれの角度で物語が描かれる誠実さに驚かされる。普通なら引き裂かれた両親の苦悩と葛藤だけを描きそうなものだが、一方的じゃなく常に他者を想像する事を意識してる。

 そしてもう一つ驚かされたのは、こんな重たいモチーフを誠実に扱いながらも時折挟まれる中国的演出の滑稽な面白さ。子どもを救出したと思って袋を開けたら猿だった後のロングショットはギャグにしか見えないし、息子を奪われ追いかける誘拐犯の妻の後ろの農民軍団にも笑わされる。『最初は違和感がある描写が後から効いてくる』という演出も良かった。最初は三歳時のポンポンが可愛いけどバカっぽくて『もっと普通にルックスが良い子にすれば良いのに』と思ったが、その3歳時のバカっぽさゆえに3年後の成長した息子役の表情が生きてくる。被害者の会の演出も新興宗教みたいなので笑わせようとしてるのかマジなのかと違和感を覚えたが、後半になるとやはりある種の逃避行動としての側面が露呈していく。

 一つ難点を言えば、偽物とはいえ親から引き離されてしまった幼少期の子どもは発育上かなり問題を抱えてしまうはずなので、前途多難な未来を予期させても良かった気がする。彼ら両親の本当の苦悩はこれからやってくるはずなのだから。なので続編があれば見たい。 

 

17. 湯を沸かすほどの熱い愛

中野量太監督作

/ 日本映画 (ドラマ)

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1年前主人の一浩が家を出て行ったが、双葉と安澄の母娘は二人で頑張ってきた。だがある日いつも元気な双葉がパート先で急に倒れ、精密検査の結果末期ガンを告知される。彼女は残された時間を使いやるべきことを着実にやり遂げようとする。

 邦画でここまで誠実な脚本の映画は珍しい。シーンに出てくる伏線としての小道具や登場人物の配置がきちんとされるも伏線映画にありがちな『前に出されたあれ、そういう意味があったのか!』というものではなく出てくる時も意味があり、それを後で登場人物が感情の中で処理していく。登場人物の感情の流れも構成上ちゃんと作られていて、一つのシチュエーションがあったとしてそれぞれが別の受け止め方をする。

 家族はもちろん周囲の環境というものは大きな一括りのものではなく、一人一人の人間の集合体として作られている事に気付かされた。物語はTVドラマの短縮版の様な細かいエピソードの羅列的な物語展開になっていくがそれが飽きさせない工夫とかその類ではなく、一人一人ずつ解決していくしかないという『母親』の想いから来ている。そしてそんな『母親』の想いを受け止めた登場人物が作り上げる例の組体操は、まさに母親の生きた証。人生が最も報われた瞬間。

 そしてそれを演じた俳優陣、宮沢りえ杉咲花と妹役の子に関しても、それぞれ物語の中で段階ごとに感情の見せ方が変わる難しい役どころなはずなのに流れをきちんと作れていた。特に杉咲花に関しては表情だけでなく天性の声による繊細な演技が凄かった。演出面で唸らせる場面はあまりあったように思えなかったが「映画オタク的な作家性の日本人監督」でもなく「中身のない職人監督」とも違い、とにかく誠実さを感じる。そもそも御涙頂戴以外でこんなベタな設定で勝負すること自体誠実だ。ラストに出てくる題字がフォントではなく手書きデザインというのも良い。

 

16. FAKE

森達也監督作

/ 日本映画 (ドキュメンタリー)

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ゴーストライター騒動で日本中の注目を集めた佐村河内守をとらえたドキュメンタリー。騒動後沈黙を守り続けてきた佐村河内氏を自宅で撮影、その素顔に迫る。映像で表現をするという行為、作り手の視点、観客の視点が抱える様々な論点をこれでもかと浮き彫りにしている作品。その意味で映像制作に携わっている者には無視できない作品。

 監督はそもそも取材対象者の味方なのか?取材対象者の言うことは自然なのか演じてるのか?編集や撮影によって真実は変わらないか?視点で善悪は反転しないか?モノづくりに一番大切なのは作るものへの信念なのか?面白くなるなら方針を変えても良いのか?監督がカメラの前で指示する事は『やらせ』なのか?『表現と虚』の関係性をとにかく考えさせられる。もちろん自分の中での結論など簡単に出せはしなかったが、匿名で人を批判したり気軽にdisり気味の映画レビューを世界に発信できる現在、重要な論点のファクターである事には間違いない。

 中身自体も観客の視点が目まぐるしく変える構成が面白い。序盤は監督と佐村河内氏のやりとりの中で『彼は耳が本当に聴こえないのか』を探りながらサスペンス的な視点で見ていく。耳が聴こえないなら何故スピーカーが部屋にあるのか。手話をしてくれる奥さんがいない時のやり取りには緊張が走る。

 しかし真面目なやり取りの中で、腰が砕ける様な人間らしい佐村河内氏の豆乳大好きエピソードや新垣氏のファッション誌デビューなどのエピソードを加える事で佐村河内氏事件をモチーフにした不条理な笑いの視点に変わる。かと思えばテレビ局出演交渉にやってくる事で『メディアの被害者』としての彼を見る事にもなってくる。そしてスターになった新垣氏を見る事で次第に善悪の反転も起きてくる。
 次に現れてくるのは妻との関係性。手話で夫を支える彼女は共犯なのかという憶測ももちろんあるが、それ以上に夫婦として支え合う姿の嘘偽りのなさに推測の視点ばかりで見てきた観客はますます混乱する。最も脆いはず『愛』が語らずとも唯一の真実として主張してくる。そして次第に浮かびあがるのが『彼が音楽を好きには見えない』という視点。

 それに対する監督自身のドキュメンタリーという枠を壊す指示、そして何が真実で何が嘘なのかよく分からなくなってくるラスト。佐村河内守氏がラストで作曲した曲に対する感想を聞かれたらこれほど困る事はない。観客である自分自身、曲そのものよりもイメージや情報や体裁を気にして映画を見ている。だから『何が真実で何が嘘なのか』自分の心にきいても分からない。

 

15. イット・フォローズ

デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督作

/ アメリカ映画 (ホラー)

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傑作『アメリカン・スリープオーバー』で青春を切り取った同監督によるアートホラー。男と一夜を共にした女子大生ジェイ。しかし男はジェイに「それ」を移したこと、そして「それ」に捕まったら必ず死ぬことを告げる。「それ」は人に移すことができるが、移した相手が死んだら自分に戻るという・・・。

 海外ドラマ『ストレンジャー・シングス』がブームとなり、夏の興行では『ドントブリーズ』が勝利。大物になったジェームズ・ワンが『死霊館 エンフィールド事件』でホラーに回帰し、JJエイブラムスも『10クローバーフィールド・レーン』でホラーを描いた。もはや世界でホラーはトレンドになっている。中でも「幽霊や殺人鬼の類を全く怖いと思えない」という意味でホラーが苦手な自分には、今作が一番怖かった。何故なら「やがて年をとり死ぬという寿命から逃げられない」という恐怖を描いていたからだ。

 性行為によって移せる不幸の手紙的ホラー設定、ヒロインの隣には幼馴染でヒロインに想いを寄せる童貞男子。この地点で帰着点はほぼ見えてしまうし怖さのレベルも読めてしまうが、そんなホラー要素も普遍的テーマを伝えるためにある。終始『徒歩で追いかけてくるなら海を渡って逃げればいいじゃん!』『隠れても無駄、動いて逃げろ!』など、逃げ切れるものと浅はかにも考えた自分が、ラストに知る今作のメッセージに打ちのめされる。『自分も逃げきれない』

 ゆっくりとだが、確実に訪れる人間の死。しかし今作はそんな死の存在の恐怖を描くだけでなく、死と向き合う人間の姿も描いている。結局童貞男子ポールこそが正解を知っていて、彼は死の恐怖が迫ってこようとも愛する人と結ばれるならそちらを選ぶ。人はいずれ死ぬという恐怖を味わってまで何故生きなければならないのか。それは『死の恐怖と向き合ってでも生きる理由があるから』に他ならない。それが、彼にとっては好きな子と結ばれる事というのは至極真っ当だ。全くもって馬鹿にできない。
 ホラー要素自体は『想像力で煽る恐怖』と『それの怖さ』の交互作用で見せるオーソドックスで、恐怖度はあまり高くない。しかしデトロイトのひんやりした舞台設定に合った打ち込み・工業ノイズの音響だったりコバルトブルーの映像が美しくてホラーホラーしたダサさがないのも魅力。 

 

14. ロブスター

ヨルゴス・ランティモス監督作

/ ギリシャ映画 (ドラマ)

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カンヌ国際映画祭審査員賞作品。ホテルに集められ45日以内にパートナーを見つけなければ動物にならなければならない者たちの運命を追う。主人公はパートナーが見つけられなければロブスターになる事を願うが・・・。

 前作『籠の中の乙女』と同じで閉鎖的でキャッチな設定を台詞で徐々に見せていくタイプの作品で、やはり情報だけでなく簡素で綺麗で破綻のない画作りで設定に説得力を与えている。そして今作も相変わらずポップな設定。日本に例えれば『婚活という強迫観念により結婚を押し込めるメジャー側』と『そこへの反動で独身を貫き趣味にストイックに生きるマイノリティー側』二つの側をユーモアで描く世界観。

 この手の作品は日本であれば『結婚=勝ち組』という構図で独身30代〜40代女性をエグり共感を与えるような作品か、結婚の悲劇を描く事で理想と現実のギャップを描く両極端が多い。しかし、今作は両者ともに結局のところ自由を奪うものとして並列的に描かれている。そして主人公はどちらにも共感できず所属できない。

 それは端的に『動物になるなら100年生きれるロブスターになりたい』というタイトルに現れている。特に『マイノリティーのスタンスの不自由さ』を告発したのが良い。ただし作品構成は上手くなく中盤以降ストーリー自体も主人公同様設定から逃避してしまう。序盤の設定が面白いと感じれば感じる人ほど、そこに不満を感じてしまうようにも思う。 

 

13. 光りの墓

アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作

/タイ映画 (ドラマ)

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原因が全くわからない眠り病にかかった兵士たちが運び込まれてくるタイ東北部の仮設病院。ある日診療所に来たジェンは前世や過去の記憶を見れる女性と出会い、病院がある場所の地下にはかつて王の墓があったことを知る。

 序盤で主人公のおばさんが看護婦から『あそこにいる子は死人の魂と話せる特殊能力がある。FBIのスカウトが来たけど地元に尽くしたいと断った』的な話を聞かされた時のリアクションが、『偉いもんだねえ』的な「え?そっち?」的な回答。今年は古今東西年間300本以上映画を見て来たが、やはり同監督の作品ほど自分たちと同じ日常を生きている平凡な登場人物でありながらズレた会話をしている登場人物はいない。

 そして固定ショットの長回しにより次第に観客は作品内のゆったりした時間に飲み込まれ(もしくは睡魔に襲われ)、その積み重ねに慣れると遠い所に旅に出てしまう。今作は特に過去の王国に想いを馳せるくだり。ズレの延長がアッバス・キアロスタミトスカーナの贋作』的な面白さに振っていく所はもちろん、自分が遺跡観光に行っても味わえない想像力をタイの田舎の王国には巡らす事ができる不思議。ただ、タイの日常描写を描く際ちょっとあざとすぎないかと思う所も多々。何というか『海外の人はこういうの好き』というポイントを知りすぎている所をひしひしと感じた。 

 

12. マジカル・ガール

カルロス・ベルムト監督作

/ スペイン映画 (ドラマ)

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白血病で余命わずかな少女アリシアは日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の大ファン。娘の『魔法少女のコスチュームが欲しい』という願いをかなえるため失業中の父は、高額なコスチュームを手に入れることを決意する。純粋無垢な願いが悲劇を生むという円環構造は2016年の世界を最も反映していると言える。
 「魔法少女になりたい」という少女の願いを軸に「恐喝→売春→殺人」と連鎖的に登場人物が悪事を働いていく構成。ラストは「少女が殺されてしまうので可愛いそう!」と思わされるものの、ではなぜ監督は少女を殺したのかと考えると今作の構造が見えてくる。今作の犯罪の根源には「少女の願い」があり、少女は願いを叶える事により命を失うという因果応報の作りにもなっている。世にはびこる犯罪は皆、純粋無垢な天使の願いを叶えるために存在しており、純粋無垢な願いが純粋無垢な存在を殺すという円環構造。ピュアな愛のために罪を犯し、そして愛を失うこととなるという人間の業が描かれている。
 省略描写も抜群。登場人物それぞれが何かを抱えているのだがあえてそれを直接描写で描かず観客に想像させる要素だけをばらまく作りは「行動動機を描かない事で行動動機に信憑性を持たせる」という不思議な作り。笑える要素もあって親父が娘が「魔法のステッキ」を欲しがっているという事実に気づいてしまい「魔法のステッキ」の値段を調べる一連のくだりはかなりコントだ。
 

11. ヘイトフル・エイト

クエンティン・タランティーノ監督作

/ アメリカ映画 (西部劇)

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現在も変わらぬアメリカ社会の縮図を描いた傑作。南北戦争後の米国。猛吹雪から避難するために店にきた賞金稼ぎの黒人、首吊り人と彼が捕まえた白人女、白人保安官、メキシコ人店番、絞首刑執行人、白人将軍。それぞれが警戒心を抱く中、事件が起こる。
 人狼ゲーム的な『全員が怪しく少しづつ排除されていく』というエンタメとしての良質な密室伏線回収脚本に、得意の血みどろ残虐描写が加えた堂々たる脚本演出。そこにアメリカを象徴する登場人物を多数配置し『リンカーンの偽手紙』によって『アメリカの理想の実現は遠い』と見せる描き方が見事。観ながら自分は、白人保安官のマニックスが【賞金稼ぎの黒人】と【ギャング団のずる賢い白人女】どちらを殺すかとの選択肢になった時『尊敬する白人将軍を殺した黒人を最後は殺すオチだろう』と思ったが、結末が違って驚いた。しかし、これが今作最大の狙いなのだろう。
 結局白人保安官が縛り首にしたのは『白人と対立した黒人』ではなく『男を従えるずる賢い白人女』である事は今になって見れば、公開後ヒラリー・クリントンが当選出来なかった事実と重ねられる。銃殺ではなく縛り首というエグい殺す動機は2人には直接的にはないが、とにかく【女の小賢しさ】に吐き気がして殺すのだろう。【白人対黒人】だった構造が小賢しい女性を殺すために手を組み反転する構造はもちろん、店番になりすますメキシコ人を排除する流れなどなど、現在にも続く米国社会の縮図を描いた傑作。
 


 

2016 MY TOP FILMS 30位〜21位

30. ズートピア

バイロン・ハワード / リッチ・ムーア監督作

/ アメリカ映画 (ディズニー アニメ)

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アメリカという国の暗喩としての肉食草食動物関係なく共存するズートピア。そこに女性差別や人種差別が存在する世界観を見せつつ、終盤は大統領選のトランプを想起させる要素がストーリーの根幹に関わる。

 序盤は子供も楽しめる内容。うさぎ警官のジュディの実際動いてる姿の可愛さは、大きい動物との対比描写でそれがより引き立つ。ズートピアの自然溢れる未来都市としての魅力と、その中でのうさぎのすばしっこさを生かしたアクションも満載。ただ大概のディズニーやピクサーの作品と同様、設定のうまさにうなされるも相変わらず中盤の展開の引きが弱い。引きとしての推理要素が分かりにくい分、パロディで大人を飽きさせなくするのは成功も時間制限を設けての引きは効果を与えられずそもそも動物が野生化する事件自体深読みしないと面白さが得られない。隣に座ってた外国人の幼児が中盤あたりから眠いと言っていた。

 序盤弱者に見えたキャラが元凶の悪者だったという展開は偏見で動物の善悪を見ているものをハッと言わせる要素ではあるが、パターン的には『アナ雪』のハンス王子と同じで、それと比べてもインパクトが弱い。もっとも『転』にあたるところで浮き上がる弱者が弱さを武器に強者を排除する展開はタイムリーすぎてよくもここまで世相を先読みして作れると世界は賞賛した。しかし大統領選後「結局こういう映画のリベラルな説教じみた姿勢が完全に世界では裏目に出てしまう」という事態が露呈されることに。

 

29. クリーピー 偽りの隣人

黒沢清監督作

/ 日本映画 (ホラー)

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刑事から犯罪心理学者に転身した高倉はある日、以前の同僚野上から6年前の一家失踪事件の分析を頼まれる。一方、高倉が妻と一緒に転居した先の隣人は、どこか捉えどころがなく……。

 『事件を探る主人公と並行してプライベート(家庭)を描く』という作りはベタな2時間ドラマでもありがちだが、観客の気持ちが落ち着くはずのプライベートがむしろ緊張感あるという構成は常に飽きさせない。観客の視点を『事件と西野(香川照之)は関係あるのでは?』と想像をさせる方向に仕向けて行くので、観客はその二つがどう繋がっていくのかを期待しながら見ていくこととなる。そこに入る西野の会話のズレがブラックなコントの様で爆笑必須。そこに常に全開のホラー演出。西野の登場シーンであえて影に立たせたり大学構内の取調べで突如抽象的な照明演出に変わるなど、撮り方一つ一つとっても気味の悪い工夫が凝らされていて驚かされる。

 ただ、前半観客の視点誘導で期待値を上げさせすぎる事が良くも悪くも後半で観客の期待を二分させてしまっている印象。西野の存在が予想通りすぎる。もちろんサイコパスとしての演出も良く出来てて、布団を収納するパックを利用した死体遺棄とか、先に警察呼んでわざと押さえつけられる所とか斜め上で魅力的だが、もっと意外な形で牙をむいて欲しかった。奥さんの役割にしても案外直球に事件に絡んでくる。もっともこれは構成上仕方ない。伏線を隠し積み上げる事をせず『伏線ですよ!』とあえて主張する事で恐怖を煽る演出。『前半が面白いのに後半失速した』ではなく、初めから逃げきりを図ろうという作りになっている。加えてサイコパスという設定上仕方がない所もある。前半観客は頭を回転させ論理でストーリーを追ったのに、その答えが『論理的行動動機を持たない犯人』となると肩透かし食らうところはある。ラストに関してはバッドエンドもある程度覚悟したが、やはり女性ファンが多い西島秀俊主演作品でそんな事は出来るはずもない。

 

28. ディーパンの闘い

ジャック・オーディアール監督作

/ フランス映画 (ドラマ)

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カンヌ映画祭パルムドール作品。ディーパンはスリランカの反政府武装組織タミルの虎のメンバー。政府に身を追われフランスに亡命疑似家族と生活する中でオーディアール作品らしい展開に巻き込まれる。音楽は自分もMY BEST ALBUM2016で16位に入れたNicolas Jaarが担当。
 ミュージシャンM.I.A.のファンならこの映画の設定にピンと来ないはずがない。M.I.A.父親はタミルの虎のオリジナルメンバーであり、擬似娘役の子をロンドンに難民でやってきた頃のM.I.A.と重ねて見ることもできる。『リードマイリップス』『真夜中のピアニスト』『預言者』『君と歩く世界』は前半からスピーディーに熱量を持って波のように展開していたが、今作はそれがなく淡々としたテンポ。だからオーディアール映画最大の魅力【トリッキーな脚本プロット】に期待しすぎると肩透かしを食らってしまう感じはあるが、最後まで見れば何故抑揚のない構成になったのか腑に落ちる。
 ディーパンがタミルの虎のメンバーという設定も長々続く凡庸な演出も伏線としてクライマックスで回収され、一流ノワールを瞬間最大風速で見せる。戦闘のプロであるディーパンがフランスの生温い移民犯罪者を蹴散らしてしまうところは爽快。逆『ドント・ブリーズ』。
 パルムドール受賞から半年後にパリで同時多発テロ事件が起きたり、今作の注目度は良い意味でも悪い意味でも高まっている。移民の存在はアメリカでもヨーロッパでも癌のように扱われている昨今だが、疑似家族それぞれが新天地での幸せに憧れを抱き、そこに向かい生きようとする姿は胸をうつものがある。幸せになる権利は誰にでもあるのだ。Nicolas Jaarの音楽もやはり良くて、元々のアンビエントな音楽とインド的サイケな旋律が合わさって面白くヒンドゥー寺院(タミル人だからそうだよね?)のシーンの音楽が特に最高。
 

27. 10クローバーフィールド・レーン

ダン・トラクテンバーグ監督作

/ アメリカ映画 (ホラー/怪獣)

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JJエイブラムス製作総指揮、脚本にデイミアン・チャゼル(『セッション』『ラ・ラ・ランド』)。批評家から絶賛された高評価を得た『クローバーフィールド』の続編。

『密室監禁サスペンス』なのか『終末シェルター生活』なのかを見守る作りなのだが、今作が凄いのは部屋の外部の情報を全く与えなくても観客が宇宙からの侵略者(怪物)を想像できてしまうという事。そうさせているのは今作が『クローバーフィールドの続編である』という情報のおかげで自然と作品内で描かれていない部分を埋めてしまうからだ。ある意味タイトル勝ち。

 低予算映画でありながら勝手に観客が超大作並みのCGを想像できてしまう作戦はプロデューサーサイドの勝利。事実、低予算ながらもアメリカで大ヒットして大黒字だという。さらに今作で観客が見ているのは実はストーリーでないというのも注目すべき点か。ストーリーは『男の言ってることは真実なのか嘘なのか』を追うものなのだが、観客は違うところを見る事になる。『クローバーフィールドの続編ということ自体フェイクなのか、やはりクローバーフィールドの続編的展開になるのか』という、ストーリーよりも上に来る視点から作品を俯瞰して見る面白さがある。
 そして最終的にはやはり『クローバーフィールドの続編』的な展開になっていくが、そこに関しても見せ方が上手い。脱出劇の後にそれが起こるゆえ『主人公にとって本当にシェルターから出た事が正解だったのか』と後悔半分に見ることで脱出前を上回る絶望が襲うこととなる。

 密室劇そのものも『父の立場の失墜』を象徴してて、外来者を排除し中の人間をファシスト的に振舞い守る姿に今のアメリカを重ねることもできた。ただ、日本ではそのあたりが全く評価されてないのが残念。原因は明白で、見るべき客層が見ず見るべきでない客層が見ている。この手のSFホラーを『怖いか』という指標のみで測ったり、この客層が求めてるアクション性を中々見せない苛立ちが嫌われてる要因になってしまっている。 

 

26. ちはやふる 上の句

小泉徳宏監督作

/ 日本映画 (青春)

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末次由紀の漫画の映画化。小学校同級生の千早、太一、新は、いつも仲良く競技かるたを楽しんでいた。卒業を機に彼らはバラバラになるが高校に進学した千早は再会した太一と一緒に競技かるた部を立ち上げ、新を思いながら全国大会を目指す。
 批判にさらされやすい漫画原作でありながら、原作の根底を理解し原作ファンを納得させる事ができたのは何より「太一を中心にした映画」にしたゆえ。原作の根底にあるものとは何か。やはり原作者末次由紀の過去作の『スラムダンク』トレース問題による絶版騒動とそこへの贖罪意識だろう。原作者の【過去への贖罪意識】と【それでも『漫画』に振り向いてもらいたい】という想いが太一の根底にあるものであり、そこと向き合う姿を描く事でただの青春部活作品にはない奥行きが生まれている。この実写化はそこを理解していた。
 あくまでも千早は狂言回しの存在に後退させ、太一を主人公に彼が贖罪意識と向き合う姿を中心に物語を描く贖罪意識と向き合い自分で運命を切り開くストーリー。他にも原作の根底に流れる、末次由紀井上雄彦の様な天才ではないゆえの凡人描写を丁寧に描くことも机君に大きな見せ場を持たす事で描けていた。机君に関して当初は『何故イケメンに?』とキャスティングに疑問を感じたが最後まで見れば納得。あまりにも大きな見せ場が用意されてるゆえイケメンでなければ画が持たないと踏んでのことだろう。
 

25.  13th 憲法修正第13条

アヴァ・デュヴァーナイ監督作

/ アメリカ映画(Netflixドキュメンタリー)

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エイヴァ・デュヴァーネイ監督作。『グローリー/明日への行進』でアカデミー賞作品賞にノミネートされた同監督によるNetflixオリジナルドキュメンタリー映画。黒人の大量投獄と、彼らが犯罪者として逮捕されやすい事実を分析する。

 『黒人は犯罪を犯す』というイメージが何故現在まで続くのかを南北戦争後から振り返る内容。南北戦争後、経済体制だった奴隷制度が終焉を迎え労働力がなくなる中ガタガタになる経済への対策として黒人を逮捕し収監し労働力に。そのために『黒人は犯罪を犯す』というイメージを植え付けられ、民間団体・企業の利益のために今もそれが行われているという事実を描く。

 ドキュメンタリー映画としての手法に斬新さがあるわけでもないので知ってる人からすれば何てことない作品なのかもしれないが、自分の様な知識のない異国の人間が観れるNetflixオリジナル配信というのは大きい。アカデミー賞が気になり長編ドキュメンタリーへのノミネートが予想される中、Netflixだからサクッと観ることができた。社会の利益のために犯罪者を増やすという今も続く『奴隷制度』に驚くとともに、『犯罪者=悪』という短絡的なイメージを壊す視点は目から鱗。
 個人的にはラストでかかるcommonの『letter from to the free』が繊細で綺麗な曲で、それが良い。昨今黒人アーティストがギャングスタラップでは自分たちの主張がかえってマイナスに働く事に気づき、より繊細な方向に向かってる所の一旦として機能していた。

 

24. ボーダーライン

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作

/ アメリカ映画 (ドラマ)

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優秀なFBI捜査官のケイトは、メキシコ麻薬カルテルの全滅を目的とした部隊に入り、特別捜査官のもとで極秘任務に就く。ケイトは早速、謎めいたコロンビア人と共に国境付近の捜査を開始。人が次々と亡くなる現実を突きつけられたケイトは…。

 2017年は『メッセージ』『ブレードランナー』続編が待つ同監督の麻薬カルテルもの。麻薬カルテルの話は複雑でわけわからないところが多い、と思う人にこそ見てもらいたい内容。なぜなら主人公自身もメキシコ国境で起きている事を理解しておらず、状況に飲み込まれていく中で徐々に実情を知っていく。観客の気持ちに立ったストーリー構成。Netflixドキュメンタリー『カルテル・ランド』とどちらをチャートに入れるか迷うことなく今作を選んだ。

 特に唸ったのは高速道路で銃撃するまでの移動シーン。これでもかと凸凹の道路を走る車両と横切る風景の臨場感。ある種の素人による潜入的ドキュメンタリー的な映画なので突然戦場に連れてかれた様な緊張感の作り方が見事。エミリー・ブラントもストーリー通しては役に立たない観客目線なのだが、グラマラスではない華奢に見える細身の体が癒しとして機能。今作はやはりベニチオ・デル・トロが凄いが、男臭い空気ばかりだとキツかったはず。

 

23. 火の山のマリア 

ハイロ・ブスタマンテ監督作

/ グアテマラ映画 (ドラマ)

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ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作品。貧困から抜け出せない一家の娘である主人公と、彼女を取り巻く人々の姿をグアテマラの社会問題も交えて描く。

 グアテマラ映画として日本初上映作品らしいが、今作が映画祭で評価された背景にはアメリカの移民問題が後押しした所が大きいように感じた。グアテマラに住みながらも公用語(スペイン語)が話せないマヤ民族にとって貧困から脱出する方法は2つ。娘を地主と結婚させるか、アメリカに移住し送金するか(実際国民の約1割の150万人以上が米国に移住し、海外送金が貧困地域の家計を支えているという)。今作はその2つの選択肢のうち娘を地主と結婚させるストーリーで、公用語が話せず警察や病院とコミュニケーションを取れないマヤ民族には理不尽な帰着点が待っている。

 ここで一つの事に気づく。それが貧困から脱出するただ1つの手段となりかけてきていると。アメリカ移民となることがアメリカの情勢的に厳しくなり今後1択を強いられる事が想像できてしまう。「ヒロインが青年と駆け落ちしアメリカに向かう」という選択肢にも未来がないという事だ。マヤ民族の理不尽な実情を描くのみならずアメリカの移民排除が浮かび上がらせる問題点を描いているからこそ、今作はグアテマラを代表する作品になったのだろう。 

 

22. PK

ラージクマール・ヒラニ監督作

/ インド映画 (コメディ)

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大ヒットを記録した『きっと、うまくいく』のラージクマール・ヒラニ監督と主演のアーミル・カーンが再び組んだヒューマンコメディ。テレビ局で働く女性が神様を探している謎の男に興味を持ち・・・。

 前作がウェルメイド系作品だったが今回もそうだった。ウェルメイド作品はいかに最初に作った大前提を物語の中で【観客に一度忘れさせられるか】が重要だが、今作もそれが完璧に行われている。序盤で【愛する二人がお互いの宗教の違いで引き裂かれてしまう】という前提を置き、次にヒロインが宇宙人PKと出会う。それにより観客は『とりあえずこの宇宙人が宗教で引き裂かれた二人を再び繋いでくれる話だろう』と、結末をすでに読めてしまう。

 しかし今作ではその後宗教問題を真剣に考えさせるというミスリードを観客に行わせ、その裏で恋愛の伏線を積み上げる。忘れさせるためのミスリードに宗教論争を使うのがぶっ飛んでいて凄く、宗教論争持ち出されたらそっちが気になってこの映画が恋愛映画だと一度忘れてしまう。その後【PKがリモコンを取り戻せるか】という物語動機を走らせ、さらにはそのために教祖へ宗教論争を仕掛ける展開を見せる。そして観客が完全に忘れた頃に再び引き裂かれた恋愛を浮上させる。まさに物語動機の奇抜さ含め手本になるウェルメイドだ。

 ただ、前半のPKの回想長すぎる。観客はPKの容姿見たら一目で背景を理解できるのに、体感にして30分から1時間近くかけてた気がする。RADWIMPSの1曲でダイジェストにしてもらいたいとすら思った。エンディングにダンスシーンがないのも少し物足りず。

 

21. 淵に立つ

深田晃司監督作

/ 日本映画 (ドラマ)

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カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞作品。鈴岡家は郊外で小さな金属加工工場を営み、夫の利雄と妻の章江、10歳の娘・蛍は穏やかに暮らしていた。ある日、利雄の古い知り合いで、最近出所したばかりの草太郎がやってくる。利雄は妻に何の相談もなく彼に職を与え、自宅の空室を提供するが・・・。
 登場人物全員に記号的な役割を背負わせ、次に登場人物の内部者が外来者の行動によって関係性やアイデンティティを崩されるというシンプルな大枠を作りあとは外来者による内部の破壊を『如何に観客をびっくりさせる芝居で見せていくか』を練る圧倒的な切れ味重視の映画。正直今年の邦画で最も自分にとってツボだった。『罪と罰』をモチーフに扱ってはいるが『罪と罰』の本質を浮かび上がらそうとしているのではなく『罪と罰』が引き起こす切れ味を利用している。
 しかし監督自身は作品で【孤独】を描いていると言っているが現代人的に【孤独】自体もう前提になりすぎてしまっており、そんな中【孤独】を乗り越える解答を模索した跡が感じ取れない。「プロテスタント」の描写に関しても、確かに介護という信仰に取って代わられる代用可能なものとしてあえて消失させているとも思ったが、妻自身にそもそも最初から【男に見られている】【夫に見られている】という視点しかなくて【神に見られている】という視点がなさすぎる気がしてとってつけた設定のようで違和感を覚えた。

 

2016 MY TOP FILMS 40位〜31位

40. 君の名は

新海誠監督作

/ 日本映画 (アニメ 恋愛)

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都会に憧れる田舎町に住む女子高生の三葉は、ある日自分が都会に暮らす少年になった夢を見る。一方、東京在住の男子高校生・瀧も自分が田舎町に生活する少女になった夢を見る。やがて彼らは引き合うようになっていくが…。

 「都会」と「田舎」を平等に描き「入れ替わり」「タイムリープ」「ディサスター」などの「みんな大好きSF設定」を用いるというボリューミーな内容だが、通常時間をかけるべき『恋愛の積み上げ』をほぼBPMの早い縦ノリ邦楽ロック1曲で見せてしまうイビツな作りで成立させる力技が見事。仲間内で議論になったのは可愛い先輩の『今、君は他に好きな子がいる』的な台詞で主役2人がお互い恋をしてる設定に見せてしまう点。確かに無理矢理だが、人の意見のままに恋愛する展開はアンチ自由恋愛の流れの一つだと自分は受け止めた。

 しかし『相手の記憶を忘れる』という設定が『2人がすぐに連絡を取りあえないようにするために』都合よく存在していてその設定が絡んでくる途端にこんがらがる点や、危機状況の間に2人の恋愛シークエンスを挟んだりしていちいち『カウントダウン回避モノ』としての緊張感を切ってしまうのも勿体無い。

 

39. すれ違いのダイアリーズ

二ティワット・タラトーン監督作

/ タイ映画 (恋愛)

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奥地の水上学校に新任教師として赴任してきたソーンは、元気な子供たちに振り回されながらも多忙な日々を送っていた。ある日、彼は一冊のノートを発見。それは前任女性教師エーンが自身の心の内をつづった日記帳で…。

 『拾った日記の書き手』というまだ見ぬ相手への恋と、立場が入れ替わりながらも中々出会わないすれ違いも入れた、まさにタイ版『君の名は』。ラストでようやく出会えて名前を言い合うシーンも有。感心したのは教師としての立場の『入れ替わり』が恋愛のすれ違いを描くだけでなく、きちんと子どもたちとの関わりに還元されている点だ。

 ただし、こと恋愛描写に関して登場人物が勝手に動き出さず、常に書き手の都合で動かされている。特に婚約者と結婚するか否か迷うヒロインの感情をもう少し掘り下げて欲しかった。ヒロインの婚約者がアジアドラマすぎるベタな嫌なキャラで、なぜ彼女は彼と長い間付き合ってきたのか。婚約者の浮気相手の女の子の妊娠問題も全く解決されないまま、何故か彼になびく。

 

38.エヴォリューション

ルシール・アザリロヴィック監督作

/ フランス映画 (ドラマ)

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少年と女性しか住んでいない島で母親と暮らす10歳の少年ニコラ。その島の少年たちは、全員が奇妙な医療行為の対象となっていた。そんな島の様子に違和感を覚えたニコラは、夜遅く外出する母親の後をつけてみることに。

 人間ではない別の生物を擬人化して描き、その生態のリアルを描写する事で耽美的な映像に必然を与えていく作風の監督。今作は水中で息ができる進化した女性たちが孤島で生活し、少年をさらっては自分たちの子どもを産ませる姿を映す。

 生態の中心に置かれるのが圧倒的に女性なのにそこに男性を少し配するのは何故なのか。女性のみで構成された世界観でも良いのになどと思ったが、やはり男性を排除してしまうと性という価値観がそもそもなくなり生態としてのビジュアルに魅力がなくなるからか。

 個人的にはギャスパー・ノエが女に対する執着みたいなものを延々と描き続けてきたのに対し、その嫁であるルシール・アザリロヴィックは圧倒的に女性中心の生態に男はほんの一部関わる程度という世界観を描いてる所に泣いた。 

 

37. レヴェナント蘇りし者

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作

/ アメリカ映画 (ドラマ)

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アカデミー賞監督賞・撮影賞・主演男優賞レオナルド・ディカプリオ)作品。狩猟中に瀕死の重傷を負ったハンターが、自分を荒野に置き去りにし息子を殺した仲間に復讐するため壮絶なサバイバルを繰り広げるさまを描く。
 撮影監督にエマニュエル・ルベツキを起用してる監督はどんどんストーリーで見せる気がなくなる。アルフォンソ・キャアロン監督の『トゥモローワールド』→『ゼログラビティ』の変遷も、テレンス・マリックの『ニューワールド』→『ツリーオブライフ』も変遷そうだ。画で見せる事が目的になってくる。イ二ャリトゥ監督の前作『バードマン』自体がワンカットで凄い画撮るのが目的なのに無理やりストーリーテリング与えた結果、薄味な底の浅いテーマな作品という印象を受けた分、今作は開き直ってシンプルなストーリーを凄いロングテイク撮影で見せきってたのは好感が持てる。
 しかし逆にそれでもタルコフスキーの真似をし空中浮遊使ったり神を描こうとしてたのはアリバイ的に深い作品に見せようとしてる感があざとい。ただ復讐劇を臨場感のある映像で見せる、それ以上でもそれ以下でもないはずだ。
 

36. ローグ・ワンスター・ウォーズ ストーリー

ギャレス・エドワーズ監督作

/ アメリカ映画 (スペースオペラ)

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エピソード3『スターウォーズ / シスの復讐』とエピソード4『スターウォーズ / 新たなる希望』の中間を描く物語。反乱軍の戦闘部隊『ローグワン』が帝国軍のデススター設計図奪還に挑む。

 人生で自分の役割をまっとうし次の人間にバトンを渡していく、ある種の東洋哲学・宗教的な人生賛歌。凡人たちを主人公にする事でより観客自身も生きる役割を持っている事を感じさせる。ある意味最もスターウォーズの本質を描いた作品。そもそも「4」の段階ではルークも凡人だった。

 ゴールが見えているだけに期待値超えはしないが、観客の大半が予想していた大きな三つの見所『シリーズに登場しないゆえ、役割を全うし倒れていくであろう登場人物の結末』『ダース・ベイダーの活躍』『レイア姫をどうごまかすのか』全てに納得の回答を提出。それでいてスター・ウォーズのバーゲンセールに陥ってしまう事を最大に配慮し、オープニングクロールは流れずテーマ曲は頭でかからず。ダース・ベイダーも登場しすぎず瞬間最大風速で見せ、エピソード4のオープニングクロールをきちんと補完するシナリオに。

 ただ観客が期待してた見所の全てがクライマックスで立て続けに描かれるという特性上、クライマックスにくるまでは知らない奴らの物語を見続ける事に。登場人物配置もチーム感があって楽しいわけでもなく『今ここにいてこれをしている』という現在地が分かりづらい。ただでさえ登場人物が多いのに立ち位置も分かりづらいので追いづらい作りにはなっている。
 

35. 母よ

ナンニ・モレッティ監督作

/ イタリア映画 (ドラマ)

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マルゲリータは恋人と別れた上に娘が反抗期。兄と一緒に入院中の母親の世話もしていた。さらには自身が監督する映画に出演する米人俳優とうまくいかず、ストレスを抱えていた。そんなある日母親の余命宣告を受け…。

 主人公の周囲が常にうまくいっておらず、仕事、母、娘の問題で常にイラついてる。ストーリーとしてはそこにある彼女自身の『人との距離の置き方』に問題があった事が露呈していく内容。周囲と距離を置くのが好きなマイペースなタイプの人には主人公には共感しつつ痛くも感じざるを得ない。タイトルに『母親』を置いたのが良かった。別に母親が中心に置かれている話というわけではなくむしろ様々な諸問題の一つにすぎないが周囲に愛されて慕われていた『母親』こそが主人公の精神面での手本でもある。母親は問題の一つであり手本でもあるという構造が面白い。

 『息子の部屋』でも息子の死によって、器用に生きていた人間の器用ゆえの問題が露呈していくし、そこにあるのが人との距離の置き方だった。その意味でこの監督の一つの大きな主張が垣間見える。ただし全編主張そのものもボンヤリとしか見えて来ないしそれでいてイラつかせる要因としてのやり取り、映画撮影シーンなどはかなりデフォルメされた露骨さがある印象も。

 

34. 海よりもまだ深く

是枝裕和監督作

/ 日本映画 (ドラマ)

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15年前1度だけ文学賞を受賞したことのある男は「小説のための取材」と理由を付けて探偵事務所で働いていた。彼は離婚した元妻と息子への思いを捨てきれずにいたが、響子に新しく恋人ができてしまい・・・。

 男という未来と過去ばかり見てしまう生き物のダメさ加減を描きながらも、登場人物皆が彼に優しく振る舞うのは監督の願望か。特に冷たく接しながらも別れた元妻がまだ男を愛している所が垣間見れる。特に彼氏に元夫の書いた小説の感想を聞くくだり。キツさを味わいながらも優しく癒されてしまう。素直に癒されて良いのか。先が見えない自分に延命治療を施すことが自分にとって良いことなのか疑問だ。

 いや、むしろそんなだから自分という男もダメで素直に今を幸せに思うべきなのか。自分が「今作に癒されるのは果たして良いことなのか」などとつい思い直してしまう。演出もシナリオも過去作の中でもかなり分かりやすく、いわゆる「リアル」と言われる描写ばかりでありながら伏線としてきちんと回収する巧さはある。ただ意図がピシッと決まりすぎている一方でそこから社会への広がりが見えてこない。結局のところ今作があくまでも社会の本当の意味でのリアルが襲いかかることのないフィクションらしい作品になっているからか。 

 

33. ヤングアダルトニューヨーク

ノア・バームバック監督作

/ アメリカ映画 (ドラマ)

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音楽はデヴィッド・ボウイの遺作にもプロデューサーとして参加したジェームズ・マーフィー(LCD SOUNDSYSTEM)。成功を掴んでいない40代のドキュメンタリー監督夫妻と、成功をつかもうと奮闘中の20代夫妻、世代の違うカップル2組の出会いを映す。

 上の世代のクリエイターは反社会的になったりドラッグに手を出したりでモラルがないと思われがちだが、表現に対する正義感が強くロマンがある。一方で下の世代のクリエイターは社会的にはまともでありながらも表現に対する正義感にはだらしなく、よく言えば柔軟で成功ルートを最短で行く。両者をぶつける事で上の世代のクリエイターの人間臭い魅力に焦点を当てるとともに、正義感ゆえくすぶる彼らへのレクイエムとしても機能している。

 個人的にはジェームズ・マーフィーのスコアに注目していたが思ったよりも控えめ。ラストでデヴィッド・ボウイがかかる。同監督の『フランシス・ハ』でもかけてたけど、あれはレオス・カラックスに憧れるサブカル女子の話なので軽いオマージュだったが、今作でかかるボウイは表現に対する真面目さと正義感の象徴である。

 

32. リップヴァンウィンクルの花嫁

岩井俊二監督作

/ 日本映画 (ドラマ)

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 『救いのない闇』と『メルヘンすぎるキラキラ』という過去作の作風を一つの作品に纏めたベストアルバム。闇があるから光も輝くゆえそれが成功。ただし180分尺。

 何も持たない主人公の日常の痛さを俯瞰して見守る『四月物語』的な入りから『リリィシュシュのすべて』の様な味方が裏切るエゲツない展開へと流れるのはまだ序盤。本当の物語は『ピクニック』のヒロイン的な真白の面白さと『花とアリス』的な女子二人のキャッキャしたふわふわした描写のシーンで紡いでいく。

 リアリティはリアルよりも突き抜けるべきと言う結婚式の新郎新婦の人生紹介が見事。全体として静かな芝居の会話劇の側面を見せながらもシーンを長く冗長にはしない。リアル志向の会話の中の些細な言葉尻を断片的にテンポよく繋いでいくのは商業映画とアート映画の中間としてのバランスも良い。

 好みの分かれるポイントはcocco演じた名前の通り真白なキャラクターの存在。眩しさとあざとさが同居。2時間主人公の人生を追っていったのに、急にストーリーの中心が真白に変わる展開。真白が自分の依存心や人生観をぶつけ死ぬ事が主人公が成長する展開を呼び込む事になるわけだが真白が語りすぎている。しかしシナリオの帰着点が無難ゆえ、裸になるシーンの面白さで強引に押し切るのは感情の延長上『ありえる』展開だから納得できた。

 

31. スポットライト世紀のスクープ

トーマス・マッカーシー監督作

/ アメリカ映画 (ドラマ)

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2016年度アカデミー賞作品賞脚本賞受賞作。新聞記者たちが神父による性的虐待と、カトリック教会がその事実を看過していたというスキャンダルを白日の下に晒す記事を掲載するまでを描いた実録ドラマ。

 週刊文春がスクープ連発で凄いと連日騒ぐ2016年の日本において、真のスクープをドラマで描くのは難しいのかもしれない。この手の記者が主役の作品の場合、日本では主人公に何か背負わせてキャラクターを個性的に描いたり、被害者を見た主人公にエモーショナルな行動動機を与え物語を正義に走らせたり、ライバル紙とのバトルものにしてみたり、はたまたドライな報道と報道される側の痛みとの心理葛藤を描く。残念ながら日本ではそんな手法しかウケようがないのだが、今作はそれらをある意味否定した作品。記者たちの細かい取材の積み重ねとそれにより知っていく真実を終始淡々と描いていく。

 中盤で記者たちが教会の真実を知り自分の背景と重ね感傷的になったり、ライバル紙を出し抜きスクープゲットを喜んだりといった日本作品にも見られがちな展開になるも、あくまでも今作はそこを描くつもりは毛頭ない。真のスクープとは事件の表層を報道することではないというテーマが置かれている。事件取材を積み重ねていき、そこから浮かび上がってくる社会問題の根本にとどめを刺すまでを浮かび上がらせていた。こんな映画を見た後だと、不倫した人間をひたすら処刑していくばかりの昨今の日本のメディアのスクープがいかに刹那的で消費的で受け手に無責任なものなのかと痛切に感じさせられる。

 

2016 MY TOP FILMS 50位〜41位

次点. 裸足の季節

デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督作

/ トルコ映画 (ドラマ)

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5人姉妹の末娘ラーレは、イスタンブールから1,000キロの場所にある小さな村で暮らしている。10年前に両親を亡くした姉妹たちは、祖母に育てられ美しく成長するが…。

 ソフィア・コッポラの『ヴァージン・スーサイズ』的ロングヘアの少女姉妹たちで埋まる画面が強烈で男ならちょっと引いてしまうほどに魅力はある。しかし、描いてるものの狭さが露呈してる点が気になった。端的に言えば『イスラム圏の女性の権利』を一方的に描いている。宗教・文化が絡む作品なだけに殊更に『自由化』を押し付けるのはどうなのか。イスラム文化のプラス面も描くべきではないかと思わされた。

 日本を見渡しても自由恋愛が進みすぎた結果として結婚できず悩む女性は増えており、最近は自由恋愛ではない恋愛作品が増えてきてる。理不尽にも必然なく赤の他人の異性と体が入れ替わる『君の名は』、男と遊女を引き裂く当て馬で嫁に嫁ぐ羽目になった『この世界の片隅に』、安定を最優先して契約結婚する『逃げ恥』。今作もやはり自由の代償となる不安定の息苦しさの一端を、そしてイラン映画『別離』などのようにイスラム圏の宗教・文化の魅力も少しは描くべきだったように思う。

 

50. アンフレンデッド

レヴァン・ガブリアーゼ監督作

/ アメリカ映画 (ホラー)

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全編映されるのはPC画面、登場人物はSKYPEのグループビデオ通話で構成される低予算作品ながら興行収入3200万ドルを超えるスマッシュヒットを記録したホラー映画。 

 SNSホラーという側面以上に怖くて気持ち悪いのが、若者たちの素早いPC操作。高校生男女がSKYPEのグループビデオ通話しながらFacebookを閲覧したりYOUTUBEを見たり音楽をかけたりがテンポよく行われる。オンラインでのつながりを使いこなし人と繋がる事を突き詰めたその光景には、スタイリッシュとグロテスクが混在している。

 加えてクリックしたい箇所が何故か押せなくなっていたり、消したいものが消せなかったり、中々動画が読み込まれなかったり、画面が粗くなったり、プライベートに突如通知音が割り込んで来たり、PCと付き合う上で嫌気のさす描写をとことんホラーに転用。恐怖度は低いがPC画面演出の全てが詰め込まれているという意味で必見の内容。

 

49. シングストリート 未来へのうた

ジョン・カーニー監督作
/ アイルランド映画 (青春)

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MV全盛期の1985年のダブリンを舞台にバンドを組みモデル志望の女の子に「僕とMV撮らない?」と振り向かせようとする若者を描いた青春映画。

 簡単にメンバーが集まり、楽器も沢山所有、レコードも兄から横流し。ビデオカメラも容易に手に入り、編集の苦労も描かれない。主人公の『モテたい』に付き合わされるだけで空気なバンドメンバー。そんな「果たしてバンド映画と言えるのか」と疑問に思える映画が大評判なのはやはり、80年代を舞台にしたバンド映画でありながら音楽に対する距離感が10年代的だからだろう。

 iPhoneで動画を撮影しSNSでメンバーを募集、ラップトップで簡単に音楽を作れストリーミングで気軽に音楽を仕入れられる現代だからこそ受け入れられる。バンド映画なのにメンバー其々をきちんと描かずメンバー同士の音楽的な衝突も皆無で主人公の思いのままなのも、バンドという形態の幻想が解体されたMaroon5(まさに今作の主題歌)を頂点とする現在の音楽界に近い。今作は80年代の青春バンド映画の顔をした10年代の『自分1人で曲作って、友達に手伝ってもらってスマホで動画撮ってアップする』物語だ。だからこそ、端折られてるバンドとしての設定に対して違和感なく受け入れられる人が多かったのだろうとも思う。

 しかし音楽好きが今年見るべきはこちらではなく、今年公開の70年代末を舞台にしたNetflixドラマ『ゲットダウン』一択。【主人公が女子への恋と並行して音楽にのめり込む青春映画】という構造は全く同じだが、時代背景を丁寧に描きヒップホップという新しい音楽に出会う興奮やレコードを手に入れる苦労、論理的に素養を学んでいく姿やMCグループのメンバーとの関係性にも重きを置いている。やはり2016年はロックではなくブラック・ミュージックの年だ。

 

48. シン・ゴジラ

庵野秀明監督作

/ 日本映画 (怪獣)

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【3.11が東京で起きたら】を現行の政治風刺と庵野秀明のめまぐるしいテンポの演出で見せゴジラをアップデート。敗者日本の再出発を描く。

【家族や恋人の様な守るべき存在】をあえて用意せず感情移入を促す方法として使用したのは『自分たちの街が破壊される』というAR/VR体験の様な面白さ。ドライな現代人、ポケモンGO同様特に都市部に生きる観客を中心に評判を獲得。

 しかし東京しいては広く見れば日本を中心にした観客こそが楽しめる作品になっており、海外では『日本はまだやれるぞ!』という他人の決意表明を聞かせれるだけの自意識過剰作品とも捉えられ『君の名は』と大分差がついてしまった。やはり日本をスクラップ&ビルドするならば、壊すべきはガラパゴス化した現状か。

 

47. インサイダーズ内部者たち

ウ・ミンホ監督作

/ 韓国映画 (復讐劇)

f:id:KOTOYUKI1108:20161230231324p:plain大統領候補汚職という利権者や金持ちへの怒りをモチーフに韓国得意の復讐劇とゴロツキと検事のバディものを組み合わせた韓国R指定映画歴代NO.1ヒットを記録した作品。

 日本が決断できない政治家を「ゴジラ」という国民的アイドルをパッケージに描いたのに対し、韓国は政治の腐敗をお家芸復讐劇で描く。残虐描写は他の韓国映画に比べると控えめながら(それでも手の切断描写はある)、復讐相手が政治家という事もあり社会的制裁がオチになるので韓国映画らしからぬ後味の良さが魅力。良くも悪くも民意を反映したマーケティングが成功した作品で内容に深みはないが、特筆すべきはキャラクター描写。

 敵側となる政治家の腐敗をグロテスクに描くためのゲスな性接待とチ○コゴルフはもちろん、味方側のゴロツキには改心の気持ちよさを、検事には正義感ではない出世欲を背負わせラストでそこから人間的に成長させるという物語に仕上げていた。ストーリーとしては個人的な怨念での復讐描写をクライマックスに置くことが出来ない分、汚職側のやり口の汚さを浮かび上がらせ、なかなか復讐が果たされないという二転三転の構成を工夫していた。 

 

46. イレブン・ミニッツ

イエジー・スコリモスフスキ監督作

/ ポーランド映画 (ドラマ)

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女たらしの映画監督、やきもち焼きの夫、出所直後のホットドッグ屋、強盗に失敗した少年などの11人の男女と1匹の犬。わずか11分の間にそれぞれの人生が絡み合い…。

 描いてるものは『偶然の事故』だがその背景に様々な人生が重なる作りは西欧における危機意識の現れか。日本においては『天災』が描かれがちだが、やはりヨーロッパではテロなどを暗喩した人災を描く事が重要なのだろう。

 演出も高齢監督に思えないスタイリッシュなもので、V∞REDOMSのライヴを彷彿。11人の男女の事情を小刻みに分割して少しずつ見せ徐々に盛り上げクライマックスでぶちかます音響はとにかく圧倒的。ただし、登場人物の背景を一切説明せず一人一人の人物造形をちょっとずつ描いていく物語は共感もしづらく全貌がラストにならないと見えてこない。この手の群像劇の割に右脳で見る映画なので、パズルを期待してはいけない。

 

45. ドント・ブリーズ

フェデ・アルバレス監督作

/ アメリカ映画 (ホラー)

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盲目な老人の家に貯金を盗みに家に忍び込んだ若者だが、老人は元軍人で襲われる羽目に。アメリカの夏の興行レースを制した新感覚ホラー映画。

『鬼が盲目な密室かくれんぼ』というワンアイデアに陥りそうな所を、現金強奪モノとしての側面、暗闇での立場逆転、密室脱出モノとしての側面、老人の気狂い性による斜め上を行く展開、『金か警察か』の二択など、様々な仕掛けを用意。

 何より逃げる側がかつてのホラー映画定番の『リア充』ではなく『地方都市の金のない若者』という点が今のホラー映画らしい。しかし現代的ヒロインにする事で過去作『キャビン』でも言われていた『ホラー映画で最後まで生き残るヒロインは処女(純粋な女)でなければいけない』というセオリーは崩れ、男性が少し応援しづらいのは気になる所。最も戦慄をおぼえるであろうあるシーンも、男性以上に女性の方がより恐怖を感じれるものが用意されている。

 

44. デッドプール

ティム・ミラー監督

/ アメリカ映画 (アメコミ/マーベル)

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下ネタ満載でメタギャグ満載の破天荒なヒーロー像でありながら、悲劇を背負い愛する人のために戦う。アメコミヒーローの誕生ストーリーの王道中の王道を行く作品。

 マーベル作品らしく『敵を強く描くこと』よりも『人間同士のやり取りにある微笑ましさ』を描く。特に売春婦の彼女を救ってイチャつく場面。ベタな展開だがやりとりに下ネタが入る事で逆に『いい話』と思わされる。やはり『このカップルだからこそできるコミュニケーション』を描くのがいかに大事かを思わされる。

 構成も他のアメコミヒーロー誕生物語と違い時系列をいじり、冒頭にデッドプールが活躍してる姿を見せてくれるので『さっさとヒーローになる姿見せて!』というイラつきを最小限に抑える事に成功。かつメタギャグにしてもオーソドックスな構成展開でリズム的な効果を与えるのみに終始し世界観、ストーリーの大枠を壊す事は決してしない。裏を返せば想像よりもかなりまともな作品で、『普通に面白い』という範疇の映画で突き抜けた何かがないとも言える。

 

43. ディストラクション・ベイビーズ

真利子哲也監督作

/ 日本映画 (ドラマ)

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イエローキッド』『NINIFUNI』などの真利子哲也監督が手掛けた若者による群像劇。地方都市松山を舞台に、若者たちの欲望と狂気を描く。

 人を平気で吊るしあげようとする奴らばかりの昨今、殴られてもへこまないしつこさの格好良さとそこに屈する中途半端な奴らの姿は爽快。だがその爽快感は「男はなぐっても良いが、女はダメ」というある種の男女不平等なルールへのカウンター的な展開へと発展した時に恐ろしいものである事に観客は気づき、ハッとさせられる。

 純粋な暴力の権化として抽象化された柳楽優弥演じる主人公の魅力はある種のファシストに近い。そして彼についていく菅田将暉演じる男はまさに「ファシストに乗せられた存在」であり、徐々に卑小な存在として映画で描写されていく。世界中の右傾化する空気を偶然描いてしまった良作だが、この映画の柳楽優弥に盲目的に憧れる事も危険だ。

 

42. さざなみ

アンドリュー・ヘイ監督作

/ イギリス映画 (ドラマ)

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結婚45周年を一週間後に控えた熟年夫婦のもとに1通の手紙が届く。それは50年前に氷山で行方不明になった夫の元恋人の遺体が発見されたというものだった。

 銀座の劇場で見たが自分の隣はLGBTカップルだった。あとで知ったのだがアンドリュー・ヘイはLGBT監督として有名でゲイ映画で評価された人物だという。彼が熟年夫婦を描こうとしたというのが興味深い。LGBTカップルは夫婦の存在証明「子ども」が作れないが、今作はそんな彼らがより関心を持つであろう二人の過ごした時間が愛の証明と言えるのかを突きつける。

 45年という共に過ごした時間がかえって自分から美を奪い、夫の若い頃の記憶に勝てなくなってしまったとしたらそれほど虚しいものはない。熟年夫婦の物語になるが、今後増えてくるであろう「子どもを作らない作れないカップル」はもちろん、独身で人生を終える者たちの未来への不安と重ねる事ができる。もっと若者が見るべき未来に向けた映画。

 

41. ヒメアノール

吉田恵輔監督作

/ 日本映画 (ドラマ)

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人生に焦燥感を抱くビル清掃会社のパート岡田は、同僚からカフェの店員ユカとの恋の橋渡し役を頼まれる。彼女が働くカフェへと足を運んだ岡田は、高校時代の同級生・森田と再会。そしてユカから森田のストーキングに悩まされていると相談され…。

 突如過去の人間関係と現在の人間関係が交差してしまうというのはSNSが流行りだした10年以上前から言われていた事だが、原作通りの「病気」としてではなく「失う物がない人生に詰んだ男の行き当たりばったりの狂気」として描いた事がより現代にマッチしそれを大衆演劇界随一の演技派と言われる森田剛が好演。

 二部構成で反転する作りは監督の過去作『机のなかみ』『さんかく』同様、視点が変わる事で世界の見方が反転する要素は観客の想像力を刺激させる。テンポもサクサク進み助長な箇所がない。ただしテンポがよすぎる分、幸せの絶頂からの落差の見せ度合いというものが中途半端ともとれる。原作はどん底の人生からようやく掴んだハッピーが危険にさらされるジェットコースターが魅力だが、映画の岡田はスタートからどん底にあまり感じられず。

 

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2016 MY TOP 50 FILMS

【2016年日本公開映画】の中で、自分が【2016年に見て面白いと思った映画】という基準でTOP 50を選びました。ストリーミングでどこでもいくらでも聴ける音楽と違って物理的にも金銭的にも限界があるので「あの映画が入っていない!」というものもあるだろうが、このランキングを作る事で自分なりの2016年を頭の中で整理してみたい。 

★ランキングは自分に「何か書きたくさせるもの」を基準に選んだので、面白いと思った映画でも特に書きたい事がなければ圏外にしてます。

 

 【2016年日本公開映画で見た作品 一覧(84作品)】

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2016 MY BEST ALBUM 50位〜1位 まとめ

今年はあまり音楽聴かなかったのでBEST50だけです。

2016映画チャートも作らなきゃなので総評は後日書きます。

※その代わりSpotifyのコード貼り付けました!

① 各チャートにはSpotifyのコードが貼り付けてあります。

② 一番下にはベスト50アルバムから各1曲集めたプレイリストもあります。

BEST 50 各アーティスト1曲ずつ入れたプレイリスト

 

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