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2016 MY TOP FILMS 30位〜21位

30. ズートピア

バイロン・ハワード / リッチ・ムーア監督作

/ アメリカ映画 (ディズニー アニメ)

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アメリカという国の暗喩としての肉食草食動物関係なく共存するズートピア。そこに女性差別や人種差別が存在する世界観を見せつつ、終盤は大統領選のトランプを想起させる要素がストーリーの根幹に関わる。

 序盤は子供も楽しめる内容。うさぎ警官のジュディの実際動いてる姿の可愛さは、大きい動物との対比描写でそれがより引き立つ。ズートピアの自然溢れる未来都市としての魅力と、その中でのうさぎのすばしっこさを生かしたアクションも満載。ただ大概のディズニーやピクサーの作品と同様、設定のうまさにうなされるも相変わらず中盤の展開の引きが弱い。引きとしての推理要素が分かりにくい分、パロディで大人を飽きさせなくするのは成功も時間制限を設けての引きは効果を与えられずそもそも動物が野生化する事件自体深読みしないと面白さが得られない。隣に座ってた外国人の幼児が中盤あたりから眠いと言っていた。

 序盤弱者に見えたキャラが元凶の悪者だったという展開は偏見で動物の善悪を見ているものをハッと言わせる要素ではあるが、パターン的には『アナ雪』のハンス王子と同じで、それと比べてもインパクトが弱い。もっとも『転』にあたるところで浮き上がる弱者が弱さを武器に強者を排除する展開はタイムリーすぎてよくもここまで世相を先読みして作れると世界は賞賛した。しかし大統領選後「結局こういう映画のリベラルな説教じみた姿勢が完全に世界では裏目に出てしまう」という事態が露呈されることに。

 

29. クリーピー 偽りの隣人

黒沢清監督作

/ 日本映画 (ホラー)

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刑事から犯罪心理学者に転身した高倉はある日、以前の同僚野上から6年前の一家失踪事件の分析を頼まれる。一方、高倉が妻と一緒に転居した先の隣人は、どこか捉えどころがなく……。

 『事件を探る主人公と並行してプライベート(家庭)を描く』という作りはベタな2時間ドラマでもありがちだが、観客の気持ちが落ち着くはずのプライベートがむしろ緊張感あるという構成は常に飽きさせない。観客の視点を『事件と西野(香川照之)は関係あるのでは?』と想像をさせる方向に仕向けて行くので、観客はその二つがどう繋がっていくのかを期待しながら見ていくこととなる。そこに入る西野の会話のズレがブラックなコントの様で爆笑必須。そこに常に全開のホラー演出。西野の登場シーンであえて影に立たせたり大学構内の取調べで突如抽象的な照明演出に変わるなど、撮り方一つ一つとっても気味の悪い工夫が凝らされていて驚かされる。

 ただ、前半観客の視点誘導で期待値を上げさせすぎる事が良くも悪くも後半で観客の期待を二分させてしまっている印象。西野の存在が予想通りすぎる。もちろんサイコパスとしての演出も良く出来てて、布団を収納するパックを利用した死体遺棄とか、先に警察呼んでわざと押さえつけられる所とか斜め上で魅力的だが、もっと意外な形で牙をむいて欲しかった。奥さんの役割にしても案外直球に事件に絡んでくる。もっともこれは構成上仕方ない。伏線を隠し積み上げる事をせず『伏線ですよ!』とあえて主張する事で恐怖を煽る演出。『前半が面白いのに後半失速した』ではなく、初めから逃げきりを図ろうという作りになっている。加えてサイコパスという設定上仕方がない所もある。前半観客は頭を回転させ論理でストーリーを追ったのに、その答えが『論理的行動動機を持たない犯人』となると肩透かし食らうところはある。ラストに関してはバッドエンドもある程度覚悟したが、やはり女性ファンが多い西島秀俊主演作品でそんな事は出来るはずもない。

 

28. ディーパンの闘い

ジャック・オーディアール監督作

/ フランス映画 (ドラマ)

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カンヌ映画祭パルムドール作品。ディーパンはスリランカの反政府武装組織タミルの虎のメンバー。政府に身を追われフランスに亡命疑似家族と生活する中でオーディアール作品らしい展開に巻き込まれる。音楽は自分もMY BEST ALBUM2016で16位に入れたNicolas Jaarが担当。
 ミュージシャンM.I.A.のファンならこの映画の設定にピンと来ないはずがない。M.I.A.父親はタミルの虎のオリジナルメンバーであり、擬似娘役の子をロンドンに難民でやってきた頃のM.I.A.と重ねて見ることもできる。『リードマイリップス』『真夜中のピアニスト』『預言者』『君と歩く世界』は前半からスピーディーに熱量を持って波のように展開していたが、今作はそれがなく淡々としたテンポ。だからオーディアール映画最大の魅力【トリッキーな脚本プロット】に期待しすぎると肩透かしを食らってしまう感じはあるが、最後まで見れば何故抑揚のない構成になったのか腑に落ちる。
 ディーパンがタミルの虎のメンバーという設定も長々続く凡庸な演出も伏線としてクライマックスで回収され、一流ノワールを瞬間最大風速で見せる。戦闘のプロであるディーパンがフランスの生温い移民犯罪者を蹴散らしてしまうところは爽快。逆『ドント・ブリーズ』。
 パルムドール受賞から半年後にパリで同時多発テロ事件が起きたり、今作の注目度は良い意味でも悪い意味でも高まっている。移民の存在はアメリカでもヨーロッパでも癌のように扱われている昨今だが、疑似家族それぞれが新天地での幸せに憧れを抱き、そこに向かい生きようとする姿は胸をうつものがある。幸せになる権利は誰にでもあるのだ。Nicolas Jaarの音楽もやはり良くて、元々のアンビエントな音楽とインド的サイケな旋律が合わさって面白くヒンドゥー寺院(タミル人だからそうだよね?)のシーンの音楽が特に最高。
 

27. 10クローバーフィールド・レーン

ダン・トラクテンバーグ監督作

/ アメリカ映画 (ホラー/怪獣)

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JJエイブラムス製作総指揮、脚本にデイミアン・チャゼル(『セッション』『ラ・ラ・ランド』)。批評家から絶賛された高評価を得た『クローバーフィールド』の続編。

『密室監禁サスペンス』なのか『終末シェルター生活』なのかを見守る作りなのだが、今作が凄いのは部屋の外部の情報を全く与えなくても観客が宇宙からの侵略者(怪物)を想像できてしまうという事。そうさせているのは今作が『クローバーフィールドの続編である』という情報のおかげで自然と作品内で描かれていない部分を埋めてしまうからだ。ある意味タイトル勝ち。

 低予算映画でありながら勝手に観客が超大作並みのCGを想像できてしまう作戦はプロデューサーサイドの勝利。事実、低予算ながらもアメリカで大ヒットして大黒字だという。さらに今作で観客が見ているのは実はストーリーでないというのも注目すべき点か。ストーリーは『男の言ってることは真実なのか嘘なのか』を追うものなのだが、観客は違うところを見る事になる。『クローバーフィールドの続編ということ自体フェイクなのか、やはりクローバーフィールドの続編的展開になるのか』という、ストーリーよりも上に来る視点から作品を俯瞰して見る面白さがある。
 そして最終的にはやはり『クローバーフィールドの続編』的な展開になっていくが、そこに関しても見せ方が上手い。脱出劇の後にそれが起こるゆえ『主人公にとって本当にシェルターから出た事が正解だったのか』と後悔半分に見ることで脱出前を上回る絶望が襲うこととなる。

 密室劇そのものも『父の立場の失墜』を象徴してて、外来者を排除し中の人間をファシスト的に振舞い守る姿に今のアメリカを重ねることもできた。ただ、日本ではそのあたりが全く評価されてないのが残念。原因は明白で、見るべき客層が見ず見るべきでない客層が見ている。この手のSFホラーを『怖いか』という指標のみで測ったり、この客層が求めてるアクション性を中々見せない苛立ちが嫌われてる要因になってしまっている。 

 

26. ちはやふる 上の句

小泉徳宏監督作

/ 日本映画 (青春)

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末次由紀の漫画の映画化。小学校同級生の千早、太一、新は、いつも仲良く競技かるたを楽しんでいた。卒業を機に彼らはバラバラになるが高校に進学した千早は再会した太一と一緒に競技かるた部を立ち上げ、新を思いながら全国大会を目指す。
 批判にさらされやすい漫画原作でありながら、原作の根底を理解し原作ファンを納得させる事ができたのは何より「太一を中心にした映画」にしたゆえ。原作の根底にあるものとは何か。やはり原作者末次由紀の過去作の『スラムダンク』トレース問題による絶版騒動とそこへの贖罪意識だろう。原作者の【過去への贖罪意識】と【それでも『漫画』に振り向いてもらいたい】という想いが太一の根底にあるものであり、そこと向き合う姿を描く事でただの青春部活作品にはない奥行きが生まれている。この実写化はそこを理解していた。
 あくまでも千早は狂言回しの存在に後退させ、太一を主人公に彼が贖罪意識と向き合う姿を中心に物語を描く贖罪意識と向き合い自分で運命を切り開くストーリー。他にも原作の根底に流れる、末次由紀井上雄彦の様な天才ではないゆえの凡人描写を丁寧に描くことも机君に大きな見せ場を持たす事で描けていた。机君に関して当初は『何故イケメンに?』とキャスティングに疑問を感じたが最後まで見れば納得。あまりにも大きな見せ場が用意されてるゆえイケメンでなければ画が持たないと踏んでのことだろう。
 

25.  13th 憲法修正第13条

アヴァ・デュヴァーナイ監督作

/ アメリカ映画(Netflixドキュメンタリー)

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エイヴァ・デュヴァーネイ監督作。『グローリー/明日への行進』でアカデミー賞作品賞にノミネートされた同監督によるNetflixオリジナルドキュメンタリー映画。黒人の大量投獄と、彼らが犯罪者として逮捕されやすい事実を分析する。

 『黒人は犯罪を犯す』というイメージが何故現在まで続くのかを南北戦争後から振り返る内容。南北戦争後、経済体制だった奴隷制度が終焉を迎え労働力がなくなる中ガタガタになる経済への対策として黒人を逮捕し収監し労働力に。そのために『黒人は犯罪を犯す』というイメージを植え付けられ、民間団体・企業の利益のために今もそれが行われているという事実を描く。

 ドキュメンタリー映画としての手法に斬新さがあるわけでもないので知ってる人からすれば何てことない作品なのかもしれないが、自分の様な知識のない異国の人間が観れるNetflixオリジナル配信というのは大きい。アカデミー賞が気になり長編ドキュメンタリーへのノミネートが予想される中、Netflixだからサクッと観ることができた。社会の利益のために犯罪者を増やすという今も続く『奴隷制度』に驚くとともに、『犯罪者=悪』という短絡的なイメージを壊す視点は目から鱗。
 個人的にはラストでかかるcommonの『letter from to the free』が繊細で綺麗な曲で、それが良い。昨今黒人アーティストがギャングスタラップでは自分たちの主張がかえってマイナスに働く事に気づき、より繊細な方向に向かってる所の一旦として機能していた。

 

24. ボーダーライン

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作

/ アメリカ映画 (ドラマ)

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優秀なFBI捜査官のケイトは、メキシコ麻薬カルテルの全滅を目的とした部隊に入り、特別捜査官のもとで極秘任務に就く。ケイトは早速、謎めいたコロンビア人と共に国境付近の捜査を開始。人が次々と亡くなる現実を突きつけられたケイトは…。

 2017年は『メッセージ』『ブレードランナー』続編が待つ同監督の麻薬カルテルもの。麻薬カルテルの話は複雑でわけわからないところが多い、と思う人にこそ見てもらいたい内容。なぜなら主人公自身もメキシコ国境で起きている事を理解しておらず、状況に飲み込まれていく中で徐々に実情を知っていく。観客の気持ちに立ったストーリー構成。Netflixドキュメンタリー『カルテル・ランド』とどちらをチャートに入れるか迷うことなく今作を選んだ。

 特に唸ったのは高速道路で銃撃するまでの移動シーン。これでもかと凸凹の道路を走る車両と横切る風景の臨場感。ある種の素人による潜入的ドキュメンタリー的な映画なので突然戦場に連れてかれた様な緊張感の作り方が見事。エミリー・ブラントもストーリー通しては役に立たない観客目線なのだが、グラマラスではない華奢に見える細身の体が癒しとして機能。今作はやはりベニチオ・デル・トロが凄いが、男臭い空気ばかりだとキツかったはず。

 

23. 火の山のマリア 

ハイロ・ブスタマンテ監督作

/ グアテマラ映画 (ドラマ)

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ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作品。貧困から抜け出せない一家の娘である主人公と、彼女を取り巻く人々の姿をグアテマラの社会問題も交えて描く。

 グアテマラ映画として日本初上映作品らしいが、今作が映画祭で評価された背景にはアメリカの移民問題が後押しした所が大きいように感じた。グアテマラに住みながらも公用語(スペイン語)が話せないマヤ民族にとって貧困から脱出する方法は2つ。娘を地主と結婚させるか、アメリカに移住し送金するか(実際国民の約1割の150万人以上が米国に移住し、海外送金が貧困地域の家計を支えているという)。今作はその2つの選択肢のうち娘を地主と結婚させるストーリーで、公用語が話せず警察や病院とコミュニケーションを取れないマヤ民族には理不尽な帰着点が待っている。

 ここで一つの事に気づく。それが貧困から脱出するただ1つの手段となりかけてきていると。アメリカ移民となることがアメリカの情勢的に厳しくなり今後1択を強いられる事が想像できてしまう。「ヒロインが青年と駆け落ちしアメリカに向かう」という選択肢にも未来がないという事だ。マヤ民族の理不尽な実情を描くのみならずアメリカの移民排除が浮かび上がらせる問題点を描いているからこそ、今作はグアテマラを代表する作品になったのだろう。 

 

22. PK

ラージクマール・ヒラニ監督作

/ インド映画 (コメディ)

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大ヒットを記録した『きっと、うまくいく』のラージクマール・ヒラニ監督と主演のアーミル・カーンが再び組んだヒューマンコメディ。テレビ局で働く女性が神様を探している謎の男に興味を持ち・・・。

 前作がウェルメイド系作品だったが今回もそうだった。ウェルメイド作品はいかに最初に作った大前提を物語の中で【観客に一度忘れさせられるか】が重要だが、今作もそれが完璧に行われている。序盤で【愛する二人がお互いの宗教の違いで引き裂かれてしまう】という前提を置き、次にヒロインが宇宙人PKと出会う。それにより観客は『とりあえずこの宇宙人が宗教で引き裂かれた二人を再び繋いでくれる話だろう』と、結末をすでに読めてしまう。

 しかし今作ではその後宗教問題を真剣に考えさせるというミスリードを観客に行わせ、その裏で恋愛の伏線を積み上げる。忘れさせるためのミスリードに宗教論争を使うのがぶっ飛んでいて凄く、宗教論争持ち出されたらそっちが気になってこの映画が恋愛映画だと一度忘れてしまう。その後【PKがリモコンを取り戻せるか】という物語動機を走らせ、さらにはそのために教祖へ宗教論争を仕掛ける展開を見せる。そして観客が完全に忘れた頃に再び引き裂かれた恋愛を浮上させる。まさに物語動機の奇抜さ含め手本になるウェルメイドだ。

 ただ、前半のPKの回想長すぎる。観客はPKの容姿見たら一目で背景を理解できるのに、体感にして30分から1時間近くかけてた気がする。RADWIMPSの1曲でダイジェストにしてもらいたいとすら思った。エンディングにダンスシーンがないのも少し物足りず。

 

21. 淵に立つ

深田晃司監督作

/ 日本映画 (ドラマ)

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カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞作品。鈴岡家は郊外で小さな金属加工工場を営み、夫の利雄と妻の章江、10歳の娘・蛍は穏やかに暮らしていた。ある日、利雄の古い知り合いで、最近出所したばかりの草太郎がやってくる。利雄は妻に何の相談もなく彼に職を与え、自宅の空室を提供するが・・・。
 登場人物全員に記号的な役割を背負わせ、次に登場人物の内部者が外来者の行動によって関係性やアイデンティティを崩されるというシンプルな大枠を作りあとは外来者による内部の破壊を『如何に観客をびっくりさせる芝居で見せていくか』を練る圧倒的な切れ味重視の映画。正直今年の邦画で最も自分にとってツボだった。『罪と罰』をモチーフに扱ってはいるが『罪と罰』の本質を浮かび上がらそうとしているのではなく『罪と罰』が引き起こす切れ味を利用している。
 しかし監督自身は作品で【孤独】を描いていると言っているが現代人的に【孤独】自体もう前提になりすぎてしまっており、そんな中【孤独】を乗り越える解答を模索した跡が感じ取れない。「プロテスタント」の描写に関しても、確かに介護という信仰に取って代わられる代用可能なものとしてあえて消失させているとも思ったが、妻自身にそもそも最初から【男に見られている】【夫に見られている】という視点しかなくて【神に見られている】という視点がなさすぎる気がしてとってつけた設定のようで違和感を覚えた。